カシミヤ“染め”の話
ファッションは『1に色、2に柄、3に作り』といわれるように、“色”はとっても重要な要素です。というより、色なしではファッションは考えられませんし、特にセーターにとって色は大変重要ですね。
今回はその“色をつける”ための“染色”の話です。
いかにいい色に染めるか、染の匠たちが日夜腕を振るっています。
カシミヤは“トップ染め”
カシミヤに限らず繊維は、ワタの状態で染めたり(トップ染め)、糸で染めたり(糸染め)、製品にしてから染めたり(製品染め)。それぞれ目的によって染め方が違います。
カシミヤは基本的には“トップ”で染められます。
ちなみに、トップで染まったワタと染まっていないワタを混ぜ合わせて紡績すると微妙なメランジ効果ある糸ができます。トップグレイなどはこの染め方の代表です。

色にあわせたカシミヤ山羊選び
また、カシミヤ山羊は個体差があり、白、グレイ、ブラウンなどの色のカシミヤがいるんです。これらの毛を生成りのまま使うこともありますがほとんどは何らかの色に染めることになります。
①ホワイト

②グレー

③ブラウン

明度の低い色はブランやグレイの毛から染めますが、白やサックス、ピンクなどの薄い色に使えるのはホワイトカシミアの毛だけです。羊毛のように色を簡単に抜ければいいんですが、カシミヤの毛は繊細すぎて色を抜いて染色をすると傷んで風合いが落ちてしまいます。
特にUTOは明るいクリアーな色が多いので、“ホワイトカシミア”を使うケースが多いです。
希少な明るいカシミヤカラー
戦後カシミヤ製品が販売されるようになった頃の色といえば、キャメル、グレイ、ワイン、紺、黒のような明度の低い色ばっかりでした。
当時はこれらの色がいわゆるカシミアカラーと言われ、『渋くてカシミアらしい深い色』といわれたものですが、現実は外貨が少なく日本で買える糸はブラウンカシミアかグレーカシミアで、高価なホワイトカシミアなどは欧米に買われて全然回ってこなかったのが実情のようです。
そのため、UTOの明るく多彩な色をご覧になって『カシミヤでこんなにきれいな色があるなんて』とよく驚かれます。
ハイリスクな“トップ染め”で
風合いを大切に
染め直しの出来ない糸は早い工程で染めるほどリスクが高くなります。もしトップ染めでワタを赤に染めたら、糸は赤、もちろん製品も赤ですね。
一段階後の糸染めなら、トップ染めよりかなりリスクは低くなります。
流行によって目まぐるしく変わる色は引き付けて染めることが出来ればそれだけリスクが少なく、出来れば閑散期に生成りでセーターを作ってシーズンに入って色の傾向が判ってから染めれば、絶好のチャンスを掴むことが出来ますね。
この夢の話みたいな製品染めを完成させたのがイタリアのメーカーのベネトン。これがベネトンの大躍進のきっかけでした。革命的だったと思います。
しかし、繊細なカシミヤはそんな大胆な方法では風合いが台無しになって不可能なんです。
日本の高度な技術“低温染め”
他にない、やわらかな黒色カシミヤニット
染めの基本は染料の入った熱湯に浸すこと。色によって差がありますが染料が繊維の中に入っていくにはある程度の温度と時間が必要になります。
濃い色ほど長時間煮つめることになって黒や紺など明度の低い色は淡い色に比べると柔らかさがなくなってしまうんです。
「色落ちがしない」ように「堅牢度を高くする」と「風合いが落ちる」というように堅牢度と風合いは相反すんですが、UTOに糸を提供して頂いている東洋紡糸工業さんでは、その両方を満足させる為に、“低温で染める”と言う特殊な方法を開発しました。
東洋紡糸工業さんは「原料を傷めない」方法に徹底的にこだわっており、UTOのカシミヤニットの“しっとりとした風合い”は、そのこだわりに支えられています。
この様にUTOの品質は染めの匠たちによって支えられているんですが、こんな最高の技術をもってしても色によって微妙に風合いの差がでるんです。
もちろんカシミヤは黒などの濃い色でも他の素材とは比較にならないほど柔らかいのですが、他のパステル系の色の糸に比べるとどうしても硬くなってしまいます。同じ品番のセーターでも色によって風合いが違ってきてしまいます。
色の匠たちはより良い色に、より良い風合いにと日々努力を続けていますが、それでもいかんともしがたい技術の壁があるんです。。
でもどうしても、カシミヤの黒はいつの時代も人気があるんですよね(笑)