商品誕生ストーリー「天使の肌触り」
UTOには天使がいてくれる
『天使のマフラー・ストール』は手に取ったほとんどの人が『やわらかい!』『気持ちいい!』といってくれる、20年以上ベストセラーで我がUTO自慢のアイテムです。
カシミヤならでは、いや、カシミヤでもここまでの風合いの商品は他にない、唯一無二のアイテムと自負しています。
そんなこだわりの風合いの秘密のお話です。
ニットの常識を無視した無謀な編地
この天使シリーズを初めてトライしたのが1994年。まだ『UTO』というブランド名になる前になります。
カシミヤをライフワークにしていこうと『ハウスオブホワイトカシミア』というブランドを立ち上げた時「カシミヤでしかできない、最高に気持ちいい肌触りのものを」ということで何回も試作して作り上げたものです。
これを最初に作っていただいたのが内田昭三さん。
内田さんは私が今まで35年以上ニットに携わってきた中で出会った最も優れた技術者の一人で、今の日本ではほとんど編む人がいなくなってしまった細かい編地の10,12ゲージのセーターを丁寧に編む、UTOカシミヤ職人の師匠です。
その内田さんにお願いしたのが『26番双糸1本で5ゲージの天竺を編んでほしい』と。
ちょっと専門的になりますが、5ゲージを編むには26番や24番双糸の3本取(3本を重ねて編む)が常識なんです。そのような中で『天使シリーズ』は細い糸を太い針に掛けて編むので、かなり邪道で編むのがとても大変なんですが、そんな無謀なお願いをしてしまうのがUTOの図々しさ。また、そんな邪道のお願いをきちんと商品にしてくれるのが内田さんの凄いところです。
簡単そうで奥が深い
糸と編み機が適番なら機械はスムースで全然問題はないんですが、この天使の場合は引っ張りがちょっと強いと繊細なカシミヤの糸はすぐに切れてしまいます。特に、手横機は編むときに適度の錘をつけて引っ張りながら編むんですが、編地が繊細なためにほとんど錘をつけられないんです。
そのために、細心の注意を払いながら編み立てます。
強度のある化学繊維や綿、引っ張りに強いウールの梳毛などの糸なら自動機でも編めるし、複雑な編地でもこんなに苦労しないんでしょう。
世界最高峰の日・英・伊・中のカシミヤ100%の糸を試して決定
内田さんの努力でなんとか『26番双糸1本で5ゲージの天竺』が編めることが分かりました。その時内田さんに言われたのが「糸によって編めるのと編めないのがあるね!」と。「糸の番手が同じでも、メーカーが違うと同じサイズにならないね!」という一言でした。
そうです!紡績会社によって糸はそれぞれの特徴があり、同じように編んでも仕上がりは同じではないのです。
その頃から、ゆくゆくは世界でどこもやっていない“ニットのサイズオーダー”をやりたいと思っていたので、この天使を機会に「糸を統一して1社を決めたい」と思っていました。
今後の糸を決める為には一番大事なことでしたので、一番難しい「適番の常識を外れた天使も編める糸を決める」ことを目的に内田さんにテストしてもらいました。
内田さんの手横機は、いわゆる人間が手で機械を動かしながら編み進むもので、自動のコンピューターの機械編みと違い、糸の微妙な具合が手に直に伝わります。「この糸は、堅い!」とか、「切れやすい」とか、「伸びが良い」とか、糸と対話しながら糸の性能を判断してもらえるのです。
なけなしのお金を工面して、当時日本で入手できる世界で最高峰のカシミヤ100%の糸ばかりを取り寄せました。日本の紡績会社は5社、イタリアは2社。当時世界で最も評価の高かった英国の某1社。そして参考までにと、中国の1社から糸を取り寄せて、合計8社の糸で編んで評価してもらいました。
全ての糸を編んで仕上げした結果、「宇土さん!これにしてよ!」と内田さんが言った糸が東洋紡糸工業さんの2/26TZ糸でした。
嬉しく、そして嬉しくない決定です。決まったことはとっても嬉しいのですが、日本の中では一番値段が高いのです。たぶん送料や税金を引いたら英国やイタリアの輸入糸より高かったように思います。以来、ずっと東洋紡糸工業のカシミヤ100%の2/26TZです。
20年伝承される匠の技術
「内田さんの手横機」から「UTO岩手工場の機械編み」へ。
邪道な“極限まで甘めに編む”方法は、機械でも同様に細心の注意を払った高度な技術・糸選びが必要でした。
岩手県北上市にあるUTO自社工場の、当時その道50年のベテランニット職人と内田さんとUTO代表・宇土。
3人で試作を重ね、ついに「天使のマフラー」が自社工場で完成しました!
世代交代した岩手カシミヤ職人にもその匠の技術が引き継がれ、20年にわたりその技術が伝承・洗練され続けています。
20年間愛され続ける
育てるカシミヤマフラー/ストール
愛らしくふわふわと天を舞う『天使』をイメージのするこのマフラーはこのように熟練の匠に苦労してもらい開発し、今でも作り続けております。
男女兼用のこの天使のマフラーを私も冬の間は毎日、何色かをとっかえひっかえ着用しています。そのうちの一本はもう10シーズンも首に巻いています。
シーズン中に何回か手洗いしますし、扱いも荒っぽいので縦に伸びてかなりくたびれてきましたがふんわり感は変わらず、首に当たる柔らかさがたまりません。
前の年に買っていただいたお客様が翌年も色違いを買って下さって、『軽くて気持ちいいよ』と、実際に着用していただいて良さを認めてくださった方からのリピートに嬉しさ倍増です。
UTOには天使がついているんですよ。