カシミヤニットの毛玉対策
毛玉のことを業界では“ピリング”と呼んでいます。
「安いカシミヤは毛玉ができて、高いカシミヤは毛玉ができない」と誤解している人もいらっしゃいますが、毛玉のできるカシミヤとできないカシミヤがあるわけではありません。
基本的には、カシミヤに限らず一般的なウール素材はすべて毛玉が起きます。
カシミヤニットは大事にしたくなるものですから、「毛玉ができるメカニズム」を知っていただきその知識のもとで着用してもらえると、毛玉ができにくく気持ちよく着ていただけると思います。
毛玉のできる原因
毛玉ができる原因は主に2つあります。
それは「摩擦」と「絡まる」です。
「毛玉ができた状態」とは、糸に撚り込まれていない部分(毛足)の繊維同士が絡まって、名前のごとく玉になっている状態です。
本来はこの糸の撚りから出ている繊維の部分が、カシミヤのあのふんわりと柔らかい肌触りになっています。
「異物」と「静電気」
毛玉ができ始める元のことを“ピル核”と呼んでいますが、そのきっかけの多くが異物や静電気です。
異物と言っても目で見て目立つようなものだけではなく、上着など他の繊維の切れたものや空気中に浮遊している埃のようなものが付着することでも“ピル核”の原因になります。
また冬場に発生する静電気も繊維同士をくっつけますのでそれが元で絡まり始める場合もあります。
「湿気」と「熱」
この「湿気」と「熱」が毛玉のできる大きなポイントです。
ピリング検査では、擦って起毛した繊維の絡まる速度が、常温で普通に摩擦した場合は段々と足し算のようにピルが成長するのに比べ、湿気や水を与えると掛け算のように急激にピルが成長し、そこに熱、特に体温以上の熱が加わるとさらにピリングの速度が速まるという現象が起きます。
なぜ水分や湿気がこんなに影響するんでしょう。
それは、ウールの繊維一本一本の特性の「水の中や多湿ではキューティクルが開いて絡みやすくなる」ことが原因なのです。
素材による毛玉のできやすさ
毛玉の試験「ピリング試験」
JWIF(ジフ)、業界では一般に毛検(けけん)と呼ばれている第三者機関の毛製品検査協会があります。
こちらでは「ピリング試験」という「毛玉のできやすさ」を測る試験を行っており、コルク張りの箱の中で複数の編地を入れて一定の時(5時間)擦り合わせることでどのくらい起毛して毛玉が出来るかを、1級から5級までを等級として判定しています。(数字が大きいほどピリングが起きにくい)
UTOのカシミヤ製品の場合、ピリング試験(ICI)では3級~4級で、カシミヤは一般的に2級あたりの為これは製品として全然問題ないという結果です。
各獣毛繊維の毛玉のできやすさ
天然のウールは繊維自体がカールしていて、クルクルと丸まり易いという性質を持っています。
このクリンプがあるので、糸を紡ぐ際にそんなにきつく撚りをかけなくても引っ張りに強いふんわりとした糸ができます。
自らクルクル丸まり空気を抱え込み保温性を高めることで、外気から身を守る大事な役目を果たしてくれます。
このクリンプも各々の動物によって特徴があり毛玉になりやすい種類となりにくい種類があります。
「一般的な獣毛繊維」の毛玉になりやすい順(縮絨性)は、
★アンゴラ > ラム > カシミヤ > キャメル > モヘア > アルパカ
獣毛の中ではアンゴラが一番毛玉になりやすくアルパカが比較的なりにくく、カシミヤはその中間といったところです。
また毛玉になりにくいアルパカの繊維は、ストレート気味でクリンプがあまりなく、毛玉になる前に抜け落ちてしまうケースが多いようです。
ただあくまでも繊維の特性であり、製品の作り方や着用の仕方でかなり変わります。
毛玉(ピリング)の対策
1. 摩擦を減らす
セーターを着用するということは「摩擦される」と言ってもいいでしょう。
その為、摩擦をなくすことはできませんが、摩擦の度合いを抑えることは可能です。
例えば、以下のようなケースを避けるのはおすすめです。
上着として着用しているときは自分の腕などの摩擦が主ですが、車などのウールのシートで背中が擦れて毛玉になったというケースがあります。
案外気がつかないのが、セーターの上に重ね着したときの上着です。
特に裏地の無いツイードの上着は摩擦が強く毛玉になりやすいです。
他にも、帆布製品などのカバンで擦れてカバンのあたった部分だけが毛玉になることもあります。
2. 異物と静電気対策
毛玉ができるもとは、繊維が自らからまるケースや、異物や静電気で繊維同士がくっついて絡まり始めるなどがあります。
異物と言っても、目に見えるようなゴミというより繊維の切れ端などのような微小なものです。これらの毛玉のもとを解消させるにはこまめなブラッシングが一番です。
着用して仕舞う前にちょっとブラッシングするだけでずいぶん違います。
絡まりそうになったピル核を解いてあげるのです。
3. 蒸れ(湿気・温度)対策
「着用頻度」と「激しい運動をする場合」にも注意が必要です。
特に男性は同じものを何日も続けて着る方もいらっしゃいますが、要注意です。
例えば、ジャンパーの内側にセーターを着て車を運転して、シートベルトで押さえられた部分が4~5日で毛玉になってしまったとか。
ウインドブレーカーの中に着て一日ゴルフをやって、腋の下が毛玉になってしまったというケースもあります。
これらは連続の着用と蒸れて圧迫され擦れた典型的な例です。
蒸れには要注意です。
UTOからは、できれば気に入ったセーターでも毎日は着てほしくない。
・1日着たら2日ぐらいは休ませて、毛に蓄積された湿気を放出する時間を作ってあげる
・ブラッシングをして、絡まった毛並みを整える
できてしまった毛玉の処理方法
毛玉のもとは毛繊維の絡まりですので、絡まりを解くか取り除くことしかありません。
毛玉のおすすめの取り方
毛玉ができたら、引っ張らないで鋏みなどで切り取るのがベターです。
ただ気をつけないと、セーターの本体まで切ってしまう恐れがあります(書いている私も切って失敗したことがあります)。
この頃は髭剃りみたいな「手軽な毛玉取り機」が発売されています。
毛玉取り機で丁寧に表面をなでてあげれば、結構きれいに取れるので安全でおすすめです。
毛玉を取ったらセーターが薄くなる?
毛玉を取ったらセーターが薄くなるんではと心配される方もいらっしゃいますが、表面の毛玉を取る程度は問題ありません。
ブラッシング
毛玉のもとは毛繊維の絡まりですので、絡まりを解くか取り除くことしかありません。
絡まりを解くには櫛で梳いたり、「毛足の柔らかいブラシ」(カシミヤ専用のブラシも市販で売っています)でブラッシングをしてください。
【余談】毛玉(ピリング)のできないカシミヤ
初めてこれを聞いたとき「ヘェー!そんなことができるんだ」と驚いたんですが、今はどっちかと言うと「なぁ~んだ」、という感じです。
でも凄い技術です。
科学加工を施した「防縮糸」
これは顕微鏡で見るミクロの世界ですが、水や多湿の状況ではウールの繊維のキューティクルが開いて絡まりやすいという特性を持っているのはお話しましたが、このキューティクルを薬品で溶かして強制的に取り除くとか、キューティクルを膜で包んでしまうというものです
業界では『防縮糸』と言っていますが、近年大量に流通しているセーターなどの多くは防縮糸になっているように感じます。
本来はウールの繊維が呼吸することで多湿の時はサラッとして、乾燥している時はしっとりした着心地で気持ちが良いんですが、このウールならではの良さがなくなってしまいます。
その代わりに、少々強く洗っても縮まず毛玉もできにくいです。
素材としてウール100%/カシミヤ100%は間違いないですが、私個人的にはこのような加工を施されたセーターの着心地は柔らかいけど、なんとなくコシがなく感じます。
つるんとしたウールはふんわり感がなく、去勢されたウールのようで頼りないので、UTOとしても使う予定はありません。
ただ多くの人により無難にザブザブ洗えるウール素材のセーターを供給する時には、やはり防縮糸は便利だと思います。
毛玉は最初の頃が出来やすい?
カシミヤが好きで、冬場はほとんどカシミヤセーターを着ている私の実体験からのお話です。
30年以上カシミヤを着用してきての経験ですが、カシミヤの毛玉は購入して最初の頃が最もできやすく、できる度に毛玉とり機で取り除いているとそのうちにだんだんできなくなってくることが多くあります。
全然毛玉にならないものもありますし、できやすいものもあります。
毛玉になりやすいものも一年目はできる度にこまめに取っていると、2年目、3年目とだんだんできなくなってきます。
詳しい科学的な究明はされておらず経験則ですので、「そのうちにできなくなるよ」なんて軽々にいえないのは残念ですが。