ニットはなぜ縮む?
カシミヤを自分で洗濯するとき「高価な愛用のセーターが縮んでしまわないか。。」不安になりませんか?
実際に縮んでしまったセーターは大人サイズのセーターが子供用ぐらいに縮んでしまって、硬くごわごわとフエルト化してとっても哀れな状態です。。
これを見てしまったらなかなか自分で洗濯する気にならないかもしれませんが、今回はどうしたらこのように縮むのかを説明しましょう。
この『縮むかも』という心配は『どうしたら縮むか』という知識があればそれをしなければ縮む心配もないし、自分で手洗いするともっともっとカシミヤを着ていただけると思います。
ウールが縮むポイントは『水』と『摩擦』と『温度』。そしてウール繊維は一方通行
カシミヤをはじめウール製品が縮む原因はウールそのものの特性にあります。
それはウール繊維を顕微鏡で見るようなミクロの世界です。
一本一本のウール繊維は人間の髪と同じように(当たり前ですね、同じたんぱく質で出来ているんですから)スケールという魚の鱗のようなギザギザが毛根から毛先に向かってついています。
このスケールの向きによって、砂や雨などの異物が自然に下に落ちて毛の中にはいらないように誘導しているんです。
そのスケールの一部を一般にキューティクルと呼んでいます(テレビのコマーシャルでやっているあのキューティクルです)。
自分の髪の一本を上から下へなでるときはスムーズですが、下から上へは抵抗がありますね。これはキューティクルの向きによるものなんです。
このうろこ状のキューティクルは開いたり閉じたりするんです。
これはウールの繊維の素晴らしい特徴なんですが、乾燥するとキューティクルを閉じて毛の中の湿気が逃げるのを防ごうとしますし、逆に湿気や水があるとキューティクルを開いて湿気を取り込もうとします。
このように生きているウールはキューティクルを開いたり閉じたりして毛の中の水分を一定に保とうとするんです。人間は寒くなったら服を着れば良いし暑くなったら脱げばいいんですが動物はそんなわけにはいきませんのでこんなウルトラCで調整してるんですね。
ウールの糸は(ウールの繊維を束にして撚りをかけたもの)の中には何十本もの繊維が入っていますがその繊維の向きは左右まちまちな方向に並んで撚りがかかっていますから繊維にとってはかなり混み合った状態です。
洗濯をするために水に入ることで束になっている一本一本の繊維のキューティクルがいっせいに開きます。ウールの繊維が混み合った状態(糸の状態)でキューティクルが開いて強く摩擦させたり揉んだりするとウール繊維が右向き(→)は右へ、左向き(←)は左へと進もうとします。これを専門的には『方向性摩擦効果』と言いますが、この為に繊維が移動して縮まったら繊維どうしで鍵がかかった状態になって元に戻らないんです。
→逆方向へは鱗の突起が邪魔して進まない
軽い押し洗い程度の摩擦なら全然問題ないんですが、ごしごし洗って強い摩擦を掛けたり、洗濯機の中で他の洗濯物で摩擦されたり絡んだりすると“方向性摩擦効果”がどんどん大きくなり縮むという現象が起こってしまうんです。
この方向性摩擦効果は温度が高いとより強くなる傾向があります。特に体温以上の温度では効果や速度が倍化されるので注意が必要です。
カシミヤを初めウールの繊維はもう一つのすばらしい働きを持っているんです。内側は水を吸収しようとする特性を持っていることはお話しましたが、スケールの表面層は水をはじく特性もっているんです。ですからカシミヤをはじめウール製品はちょっとした水滴ははじいてしまいますので、中まで浸透しないで軽くたたくと水滴は飛び散ってくれます。
逆に内側は親水性ですので水蒸気は吸収しますので汗の蒸れなどを取ってくれるのでウール製品は多湿の時にはさっぱりするんです。
ちなみに繊維の吸湿率は、綿が8.5%、化学繊維や合成繊維ではナイロンが4%、アクリル2%、ポリエステルは0.4%ですからほとんど湿気を吸いません。しかしウールはなんと15%なんです。
ですから、夏物にウールというのは決して間違っていないんです。ただ羊毛以外の獣毛はウォーム感が強いので向かないかもしれませんがウールの強撚糸の細番手などは絶対にいいとおもいます。
縮みの科学を知ったら、洗濯は怖くない
ウールが縮む要因を説明してきましたがポイントは一つ『方向性摩擦』なんです。
縮む順序のイラスト
1、ウール繊維にはうろこ状のスケール(キューティクル)が付いていて毛根から毛先に向かって一方方向を向いている
2、水に入ることでキューティクルが開く
3、糸はウールが混み合っている状態
4、洗濯の摩擦で方向性摩擦がおこる
5、温度が高いと方向性摩擦が強くなる(特に体温以上)
6、タンブラー乾燥機などで熱風と回転の摩擦で方向性摩擦がさらに倍加
縮ませない=方向性摩擦を起こさせない洗濯方法のポイントは
1. 常温の水で(ぬるま湯の必要はありません)
2. 洗剤はよくあわ立てて(繊維のすべりを良くして)
3. 軽く押し洗いとにかく摩擦を少なく短時間で優しく押し洗い(洗濯機の手洗いモードでも可)
4. 他の衣類との摩擦を避ける為に一緒に洗わない(必ず一枚で洗ってください)
5. ゆすぎの後はリンスや柔軟剤などで油分を補給
6. よーく水分を取って(脱水機が一番)
7. 元の寸法に伸ばして平干し
以上、ポイントさえ抑えれば縮む心配はいりません。
なぜドライクリーニングでは縮まないの?
ドライということは“水では洗わない”という意味です。
水ではなく石油系溶剤で洗うのでウール繊維のキューティクルが開かないので少々の摩擦でも繊維が詰まりにくいということです。