縮絨の話-カシミヤは醜いアヒルの子
ニットの代表的な素材、あのふんわりと軽くて柔らかい肌触りのカシミヤ製品は手に取っただけで他の素材との違いが解りますね。
当社に置いてあるカシミヤの糸をご覧になって『へぇー、これがカシミヤの糸ですかぁ』といいながら手にとってみると『エェッ、これがあのカシミヤですかぁ?!?!』と、殆どの方がビックリされます。
あのふんわりのカシミヤとは想像も出来ないほど、糸や編みあがったばっかりのカシミヤセーターはガサガサの肌触り、、だから無理もありません。
(左)縮絨前(右)縮絨後
左側(縮絨前)は背景の白が透けて見えるほど編み目が緩めですが、右側は編み目が詰まっています
詰まるといってもぎゅっと固くなるわけではなく、ふんわり
縮絨で変身!
編みあがったカシミヤセーターは“縮絨”という作業をします。
カシミヤをはじめ紡毛といわれる素材にとって、この縮絨は大変重要な作業です。
方法は、乱暴にお伝えすると「セーターを洗ってやる」んです。その際に水だけでなく、知識と高度な技術と熟練が必要です。
洗いながら糸の間を水が通ることによって紡がれて、中に撚り込んでいるウブ毛を表面に立てるんです。
そのときに若干の縮みが発生します。だから、カシミヤセーターを編む時には出来上がりの寸法を想定して大きめに編んでいかなければなりません。この縮みの頃合いが難しいんです。
ですから、本番のセーターを編み始める前には同じロットの糸である程度の大きさの編地を試編みして縮絨して、縮み具合を計算して編み上げる寸法を決め本番にうつります。
↑縮み分を計算して、少し大きめに編み立て
カシミヤの風合いを左右する縮絨
縮絨の度合いをかるくしたり強くしたりの加減で風合いや寸法が全く変わってしまいますし、その縮絨も元の糸の撚り方の強弱でも違いが出ます。もちろん編地の詰まり具合(度目)の違いでも大きく変化します。
『こんな風合いのカシミヤセーターにするには、この程度の縮絨が必要。それにはこの糸でこの編地なら何パーセントの縮みが出るのでこれだけの幅に編む』といった具合です。
↑目標の風合い・サイズに向け、縮み分を考慮しつつ編みを設計中
織物のパターンと比べとても難しく、経験の賜物です
厳密に言えば、編み立てる時の天候にも左右されます。雨の日、晴れて乾燥した日、冬の寒い日。
特に湿度には敏感ですから調整しながら編んでいきます。熟練の職人さんやプログラマーさんたちは、その日の天候で室内の温度や湿度を調整しながら作業をやっていくんです。
いろんな条件で熟練した人は編み機を何回か動かしただけで「今日は軽い」とか「重い」とかわかるようです。
また出来上がりの風合いや柔らかさなども各々好みがあります。
一般に英国はしっかりした編地で着ているうちに柔らかさが出るようなカシミヤを好み、日本やイタリアでは触っていかにもカシミヤタッチの柔らかめが好まれるようです。
“自然乾燥”でよりふんわり
縮絨したカシミヤは乾燥させます。今では乾燥機を使って短時間で乾燥させるのがほとんどですがUTOはすべて自然乾燥です。
自然乾燥は時間も手間も掛かりますが、カシミヤにとっては最も優しい方法だと思います。
乾くと今までのガサガサとは全く違うあのふんわりのカシミヤセーターになるんです。まるでがさつなアヒルの子が優雅な白鳥に成長するかのようです。
このようにカシミヤはファジーな素材で経験と感とセンスを要する奥の深い素材です。
その分やりがいもあり面白く楽しい世界です。